風に舞いあがるビニールシート

2006.9.14風に舞いあがるビニールシー

直木賞受賞作、森絵都の「風に舞いあがるビニールシート」。読まなくっちゃなーと思いつつ、図書館の本じゃなく、王様が買って来た本だもんでついつい後回しになっていた。だって、返却期限ないし
6つの短編集。最近多い「連作短編」ではなく、普通の短編だけど、どれも何かを抱えながら力強く生きる人たちがテーマ。どれもイイ感じの作品だ。ただ、うまくまとまりすぎというか、衝撃や押し寄せる感動はない。短編にソレを求めるのは無理かな
中で私の琴線にものすごく触れたのは2つ目の「犬の散歩」。センターにいる犬を救うボランティアをしている主婦が犬のためにホステスをしてお金を稼ぐという話だ。話の運びや結末はちょっとほろりとさせるものなのだが、現実の話として、犬も猫も飼ったことが一度もない主婦が急にボランティアするかな?とか生活に困っていない主婦なのに、ホステスするかな?なんて思ったりもするがそれは置いておいて、心にしみた台詞があった。
「保護活動とか言ってもね、私たちが救いだせるのはこの中の一割にも満たないの。ぜんぶを救うには人手も資金もとうてい足りないし、そんなことしてたらすぐに活動自体が破綻しちゃう。だから、私の中にいつもあるのは、自分はこの犬たちの一割を救ってるんだって思いじゃなくて、ここにいる九割を見捨ててるんだって思いなの」ここにいる九割を見捨てている。そんな思いを背負いつづける覚悟があるのなら、どうか私たちの仲間になってちょうだいー。
主人公の主婦より先にボランティアをしていた友人の言葉だ。私には、そんな思いを背負いつづける覚悟がない。だから実際の保護活動には飛び込めない。自分が傷つかない範囲で出来る事しかしていない。時々、ものすごく自分がずるく思える。でも、これが私に出来る精一杯だ。
「犬の散歩」に描かれるセンターの現状や保護活動については、概ね事実に基づいているのではないかな?と思う。実際、保護活動をされている方が読むと、ご不満もあるかもしれないけど、私レベルの「ちょっと知ってる」人間から見ると良く書けてると思う。
森絵都が特に動物愛護に力を入れているのではないと思うけど、こういうことが普通に小説のテーマになるというのは、それだけで喜ばしいことではないかな?